MyPacE

自分のペースで進み行く、全スキルマスターと言うお馬鹿な山頂へ。

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1話 電話  

 開けたドアの先から、湿気で充満していた嫌な空気が出てきて、遠矢は思わず一歩後退りした。

 留守中で埃など立てた覚えもない、この静かな空間で今日一日空気は暴れまわったものか。

 靴を玄関で脱ぎ急いで電気をつける。

 それでも薄暗く感じるのはきっと雨のせいだろうと思った。



 遠矢が住んでいる家はさほど広くもない、ごく普通のアパートである。

 キッチン、トイレ、風呂場、ベランダ。床は一部除きほぼ畳。



 フリーであるスペースには何もないと言えるほど置いていない・・・っと言うのも、引っ越した時から家にいることはほとんどないからであろうか。

 中古屋でよく売っている小さな簡易テーブルを壁に向かい合わせ、テーブルの上には一台のノートパソコン。

 テーブルの横には高校と大学の教科書合わせて立てている。







 いつも見慣れている部屋であり、遠矢は何故かホッとした。

 高校帰りの時と変わらない・・・変わったのは進学先だけなんだと言い聞かせもする。







 とりあえず遠矢は重い鞄を下ろし、押入れを開けて、布団がぎっしりと詰め込まれている中に顔をそのまま突っ込んだ。

 疲労から湧き出た睡魔が一気に脳裏に駆け巡る。

 このままにすれば無論立ち寝する羽目になる訳で、遠矢はダルそうにしながら顔を上げ、白い布団を引っ張り出した。


 布団を敷いて、とりあえず風呂に歯磨き、そして寝ようと決めた。

 確か大学からの課題が出てたはずだが、今の遠矢の頭にはそんな文字など浮かばない。

 例え思い出したとしても構わず睡眠の方に力を注ぐだろう・・・。







 睡魔からボーっとしていた頭を振り払い、行動しようとした時だった。







 ―――ルルルルッ







 あまりに静まり返った部屋であるからか、普段よりも大音量に聞こえ遠矢は思わずビクリと振り返った。

 音の正体を理解するのに数秒かかったが、分かった瞬間舌打ちする。



 それはかかってきた時間には不審に思わず、驚かすんじゃねぇよ誰だこんな大音量にしたのは・・・。

 っと言うものであった。勿論のことながら、遠矢の電話設定を弄ることが出来るのは彼自身にしかいない。

 遠矢は受話器を手に取り、ダルそうな調子で「ハイ、田城ですが」と言った。







 『・・・・・・。』

 「・・・・・・?」







 しかし電話に出ても相手の反応は無い。

 遠矢は相手が聞こえなかったのかと思いもう一度同じことを口にした。

 だが先ほどと同じよう反応が無い。



 遠矢はそのまま電話を切ろうかと思った時、耳障りな音が電話を通じて伝ってくる。

 まるで鳥でも羽ばたいたのか、力強い羽音であった。







 『田城遠矢か。』







 羽音が治まってから数秒後、やっと電話をかけてきた相手が口を開いた。

 だが、その声は初めて聞く声である。遠矢はふと首を傾げた。



 今まで、小学校から高校まで親しくした友など両手で数えられるほどしかいない。

 それでも、その内に入るのであればこう思うのは失礼になるだろう。声変わりしたなら無理もないが・・・。

 しかし残念ながら、予想を確定させる力など遠矢には無かった。



 どこかの勧誘組織であるにしても、何しろ礼儀がなっていない為選択の枠から外れる。







 「どちら様ですか・・・?」

 『2度刻が替わる瞬間、お前が見る世界が変わる。』

 「・・・ハァ!?」







 相手は短く理解の出来ない言葉を発し、遠矢は素直に声を上げた。

 だが相手・・・声からして男性であるのか少々低めで、揺れのないトーンであった。

 それにあまりに無愛想な言葉で唐突で余計混乱した。







 「どう言う意味なのか説明してくれませんかね?」

 『時間がない、とりあえず一方的に話して切らせてもらう。』

 「・・・・・・。」







 急いでいるような様子など見られないのだが・・・。

 と遠矢は心から突っ込みを入れたが言わないでおいた。



 それに一方的にと自覚しているのであれば、どっかの刑事ドラマで要求する犯人かとも思った。

 両親が警察になった覚えもないし、むしろ冒険家で職場も無いし家にもほとんど居ない。

 そう思っていることなど男性は知る由も無かった。







 『明後日にお前の世界の影から己を地獄へ誘い込む光景を予知したらしい。』

 「地獄・・・。」

 『それを回避させる為にお前・・・遠矢をこっちの世界へと引き込む。』

 「・・・・・・。」







 何を言っているのか懸命に理解しようと、遠矢は男性の言っていることを脳裏にも繰り返し回転させた。

 だが結局、俺の耳元へ囁く声は諦めろと言う感じもして腹立たしいものだ。







 『だがこっちの世界からお前の世界へは戻れるかは分からない。

  出来るだけやりたいこと・・・別れの言葉云々は明日済ませてくれ。』

 「それは素直に受け止める方が時間が無駄にならないとも言うのか?」







 遠矢はこの時にして初めて口出しした。

 すると男性からの用件は全て終わったらしく、少しトーンを下げて答えた。







 『世界を救ってほしいんだ、仲間と共に・・・。』

 「・・・・・・。」







 答えになっていないと言いたかったが、男性はその声だけトーンを低くされて、遠矢は言葉が詰まった。

 何処か悲しみが含まれたような寂しさが伝わる。

 その為か刹那の願いに近い、相手はその気でないだろうが遠矢にはそう思った。







 『そう言う訳だ、切る。』

 「・・・・・・。」







 ―――ツー・・・ツー・・・







 仲間・・・果たして向こうの世界で出来るとでも言うのだろうか。

 今通う大学でも、ろくに仲間なんて言える信頼出来る人など皆無に等しいと言うのに・・・。



 遠矢は暫く、受話器を握り締めたままその場で立ち尽くす。

 早く元に戻してくれと言わんばかりに、部屋中に電話が切れた音が響き渡っていた・・・。





















 「これでいいのか。」







 そこは地面以外、純白の光が注ぎこんで眩しく照らしていた。

 ふと、光が渦巻き包まれた中から赤髪の男が現れ、相変わらず無愛想な調子で訊ねる。

 言葉を向けたのは・・・黒服のツインテールの女性。

 青い澄んだ瞳を閉じ、首を縦に振った。







 「ありがとうございます。」

 「だが、これだけじゃないんだろ。」







 疑問形で訊ねないことから諦めているのか、それとも元々であるのか。

 既に理解済みであった女性はクスッと笑う。

 男は赤い髪を微かに揺らし溜め息を吐いた。







 「相変わらずだな。」

 「変わらないのは良いことでもあるのですよ。」







 今まで散々人を連れ込んでは様々な出来事に直面してきたものだ。

 長い旅をして、この女性に連れられては現実の世界から新たな旅人を呼び出し。

 次はどんな者と共にするのか・・・そう赤髪の男は気が遠くなりながら思っていた。

 だが何故だろうか、今の気持ちは正直に言えば少し楽である。



 突如の出来事にあんなに冷静になった・・・遠矢と言っただろうか。

 まるで似た者同士だなと男は心から苦笑いした。







 「バイトに行くから出してくれ。」

 「これから、遠矢をお願いしますね。」







 すると女性は両手を空に差し出し、掌から光を放ち、その光は男の周りを包み込んでゆく。

 その光に飲まれる前に、男はふと呟いた言葉など誰も聞きやしなかった。





















 「報酬の為であるなら・・・。」

 っと・・・。











 09/05/04 作成

 10/06/02 公開

category: マビノギ

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