MyPacE

自分のペースで進み行く、全スキルマスターと言うお馬鹿な山頂へ。

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とても寒がりな彼女だから 01  

―――天へ伸び傘を差し出す、太く優しい樹木を抱きしめて。

※ノーマルな内容ですので、恋愛物苦手な方は開かないこと推奨



【とても寒がりな彼女だから 01】



 日本の首都、東京。都会でもない、田舎でもない、丁度良い位置に建つ志都美谷高校。
 略して谷高。略しすぎなのかもしれないが、俺ら生徒から見ればそれが一番しっくり来ている。

 1限目から換気に全開された窓からは、淡い桃色に染まる桜が覗かせていた。春だなぁ、なんて俺がぼんやりと遠目で眺めていれば、その空気に引き込むよう眠気が襲ってくる。白とも言えず、ピンクとも言い難い絶妙な甘い色は、夢の世界と似ていた。あぁヤバい、今日4時間しか寝てないんだけど、ゲームやり過ぎたツケが早くも回って来てる。
 昼休みのポカポカとした温かな日の光は、季節の中では断トツに柔らかくて優しい。駄目だ、寝たら5限目が終わるまで寝てしまう。次はあの理解不可能な数学なんだ、寝たら追いつけなくなる理解出来なくなる。あれ、どっちにしろ理解出来てなくね?寝てもそんな変わらなくね?
 だが、俺の中で発生したスパイラルを沈めたのはたった1つの存在、授業態度と言う加点だ。数学の教師はそれなりに厳しいもので、特に授業態度を重視に見ていると宣言していた。そうだ、その為にも俺は意地でも瞼をこじ開けなければならない。

 口では1字も語らず、心の中で甘い誘惑との葛藤を繰り広げていたからだろう。俺は後ろから忍び寄る影に気が付かなかった。ガヤガヤと談話や廊下からの雑踏が、ワンテンポ遅れて耳から脳へ届く状態で、次の授業はと学生鞄から教科書を取り出そうとする。その時だ。

 「まっ、さあきー!」
 「ぐえっ」

 背から伸びた細く白い腕が緩く絡まり、更に追い打ちをかけるよう背中から、軽いが勢いある衝撃を受け、そのまま俺は机の上へと上半身を突っ伏した。硬い机と後ろからの強襲で挟み撃ちになり、思わずカエルが潰れたような声を上げる。さらりとこぼれた長くも短くもない黒髪が、俺の頬を擽った。
 半ば大袈裟な演技に見えるが、確かに半分はリアクションを大きくしている節がある。だが、残りの半分は本気で驚いたし、すぐに対応出来ず机へ倒れ込む形になった。大袈裟に見せたのは、そのまま鼻頭と額を思いっきり机の上にぶつけた動作だ。

 「あ、ごめん、やり過ぎた……?」

 さて、そして先ほど背後から飛びかかってきた正体は、実に馴染んだものである。俺は自分でも加減出来ず強打し、ひりひりする額を擦りながら首を振った。振り向けば、クリクリとした丸い瞳に、肩より数センチ下へ伸ばした黒いミディアムヘアの女子がそこに立っている。体格は一般的な女性のようだが、男である俺から見れば断然細身に見えた。人形のように白い肌は、日光に照らされると一層眩しく輝かせる。
 陽千晴(みなみ ちはる)、それが飛びかかってきた女子の名前であり、そして。

 「また何か忘れもンしたか? そろそろ授業だろ」
 「んーんー、なーんも」

 そう聞いたが、彼女は嬉しそうに目を細めて首を振った。体の動きに合わせるようさらさら揺れた、艶のある髪は涼しげな春風に吹かれる。予想に反する答えに「はぁ?」っと声を上げ怪訝そうに見るが、彼女はただただ楽しそうに笑った。俺と彼女の教室は異なっており、いくらか前までは本当に教科書を借りに来るだけで訪れていたはずだ。
 だが、その件では無いと言うと、もう1つだけ思い当たる節があった。

 「陽、もしかしてお前寒いんだろ?」
 「あったりー! 雅明よく分かってんじゃーん!」
 「おい止めろ、人目に付くだ―――」

 再び両腕を俺の肩へと乗っけては、背中へと軽く体重を掛けてくる。ぴっとりと密着した彼女の制服越しから、柔らかく穏やかな体温を感じた。その感覚にドキリと心臓の脈を跳ね上げ、俺は思わず振り払おうと彼女の腕を手にしたが、なかなか剥がさせてくれない。慌てて止めさせようと口を開き抗議しかけたが、見渡してみればこれも日常の一部と取り組まれた様子が窺えた。白い目で見られていると言うより、またやってるよと横目に談話している。
 あぁ違うんだって、皆誤解だって!俺らは付き合ってる訳じゃなくてだなぁ!なんて心の底で叫ぶ。しかし、そう言えば教師からも妙に羨むような妬むような、そんな視線を投げられたこともあり、どうやら誤解は既に大分広まってしまったことに頭を抱えた。

 単なる幼馴染みなのに、どうしてこうなった。

 「またいちゃつきやがって」っと親友である半田からも半目で見られる。おい、お前は陽と幼馴染みだって知ってるよな?少しは助けろよ、って無視するんじゃねぇ、お願いします半田様、この暴走娘を何とかして下さい。娘でも無いけど、っと言うか今日暖かいのに何故くっつく。
 やがて俺は半ば諦めそのまま自分の席に再び着き、陽にされるがままになった。

 「ねぇ雅明、6限終わったら一緒に帰らない? ちょっと付き合って欲しい所があるんだけど」
 「何だよ、部活もバイトも無いのか? ……無かったら誘ってねぇか」
 「今日好きなアーティストのアルバム発売日でさー」

 ゆらゆらと、彼女はご機嫌そうに言いながら俺の体をゆったりと揺らす。ロッキングチェアの横バージョンと言うか、揺り籠と言うか、とにかくこの春風が全開にされた窓から入り込んでくる環境の中。しかもポカポカとした日の光が制服を照らし出し、先ほどより尚パワーアップした睡魔が、意識へと猛攻撃を仕掛けはじめた。
 そんな俺の気持ちも知らない彼女はただ嬉しそうに、うっとりとして吐息を吐く。不意に俺は、彼女が吐いた透明な息が何処か切なく思えて溜め息を漏らした。数か月前は、息を吐く度に目の前に白く小さな靄が現れては消えていた。もう、こんなに時間が経ったのかと思って息を呑んだ。

 「しゃーねぇな、付き合ってやるよ。 授業終わって用が済んだら、いつもン場所で待ってるわ」

 答えを聞いた彼女は「ホント? やった!」っと喜ぶが、それも束の間。学校中に響き渡った電子音によって陽の体はピタリと止まった。だが嬉しそうに満面の笑みを浮かべている、子供のような表情は変わらない。俺の首に絡めていた腕をパッと離し、それと同時に振り返った。

 「じゃあ、雅明も授業頑張ってね」
 「お前もな」

 先ほどまで接触していた背中は、何処か名残惜しそうに少々涼しくなる。そんなこと言えるはずも無く、俺はご機嫌に手を振る陽にエールを返した。教室と廊下を仕切る壁の向こう側へと消えた後、ガタガタと着席する音を背景に小さく溜め息を吐く。先ほどの睡魔は何処へやら、がっしりと何かを味方に付けた意識は、レベルアップしたはずの睡魔をあっさりと打ち倒していた。
 俺と陽は、幼馴染みがほんの少し暖かくなっただけの関係だ。幼稚園に出会って、学校に上がっても一緒で、これぞ腐れ縁と言うやつか。本当昔から変わらない。あの純粋に喜んだ時の笑みや、気に入った人には背後から忍び寄ってはいきなり抱きつく仕草も、昔っからちっとも変わっていなかった。
 だが時間が経ち、背が伸びるにつれて徐々に大人の影が見え隠れしてきている。子供っぽい口調と性格を除けば、気後れするぐらいに綺麗になっていった。

 何だってんだよ……。
 いつの間にか教壇へと立っていた教師を目にして睨む。別に羨みか妬みか分からない視線を向けられたことに、そんな些細なことを恨んでいた訳ではない。それよりも、周りの変化に気が付かないほど深く考え込んでいた、俺自身に苛立ちを覚えていた。

 幼馴染みと言う壁が、年を重ねる毎に高く、太く根付くものなのだと誰が予想していたことか。
 それに気が付かない俺は、ただただ答えの見えない式をぼんやりと眺めていた。





 公開:13/09/16

category: 一次創作

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