MyPacE

自分のペースで進み行く、全スキルマスターと言うお馬鹿な山頂へ。

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Unlucky - 3.暗闇  

 ゆったりとした心に染みるジャズが流れている。夕食の時間まではまだ早く、多くの席が空席だ。
 話し声もあまり聞こえない中、カランコロンと澄んだ小さな鐘の音が響いた。入店した1人の客は成人と思わせるようにすらりと背が高く、全身を包み込んだ漆黒のフード付きローブは、如何にも怪しさを漂わせる。だが、既に着席していた黒髪の少年にはすぐに分かった。
 誰かを探すように視線を巡らせていた青年に、片手で小さく振り知らせる。黒いローブから微かに覗かせた、鮮やかな赤髪と海のような碧眼が、僅かに店内の光を受けて鈍く光る。ローブが少々濡れているらしく、仄かに梅雨の香りがした。

 「体調は平気か」

 黒いローブを着た青年……柳火は、フードを後ろに下げ素顔を晒しながら、実にらしくない言葉を少年に掛けた。黒い軍服を着た黒髪の少年、黒星は小さく笑う。

 「お陰様で。睡眠も取れたし、腹いっぱいになった」
 「……そうか」

 答えを聞いて、ほんの少し緊張の糸が緩んだように呟き、黒星の向かい席へと腰掛けた。

 黒星が倒れた後だ。敵を全滅させた柳火は、黒星に替わって交易品を運んだらしい。黒星は馬車に乗せて好きに眠らせ、重量オーバーであった馬車は普段よりも減速して走らせる。あの後は略奪団に遭遇することも無く、無事にタラへ到着した。
 数時間前目覚めた黒星は、ふと柳火に疑いを持って金貨を入れておく袋を手に取っていた。だがその疑いはあっけなく晴れる。以前袋を持った時の重さとは大分違う、かなりの重みを増した袋が手にあった。一銭も受け取らず、更には約束通りに食事代を全て奢ってくれたのだ。本人は口が裂けても決して言うことはないが……。
 それが何よりも、信頼することに賭けた出来事だった。

 人間が主に過ごすウルラ大陸、その最も南側に位置する巨大な首都、タラのとある店に居た。
 1件1件高層ビルのように建っている家と家の間、その半分にも満たないほど低く、しかし面積は少々広めの飲食店。場所が悪いのか、それとも雨天だからか、足を踏み入れる人は少ない。バーと思わせるような音楽に、店内は真新しく思わせるぐらい綺麗で洒落ている。
 だが出される料理の数々は、ごく一般的に食べられる洋食が多く、案内した彼曰く「タラで一番安くて美味い店」らしい。それでも流石都会と言うべきか、一般人もあまり手が出せない値段なのだが。

 「バンダナ、そう言えばお前随分早く帰ってきたな」
 「そうだな」
 「ギルドから抜けたんじゃないかって、連絡もそれ以降一切取れずでマスターもハラハラしていたぞ」

 黒星はケラケラと笑うが、柳火はただ「そうか」とだけ言った。

 この世界では定位置に居座ることがあまり無い旅人が多く、人と交流を交わしてもすぐに立ち去り、次の目的地へと放浪する人が非常に多い。その為、仲間と会っても次会える時期など分からず、いつの間にかその仲間が行方知らずになった……。なんてこともザラにあり、ダンバートンの治安を守っていた組織は、ギルドと言うものを管理し始めた。
 ギルド、つまり旅人同士で組織を作る訳だが、その方針は全く自由となっている。加入させる人柄の方針やグループ内のルールなど問わず、ダンバートンにて名簿を作成し、定期的に加入者と脱退者を知らせれば維持出来る。ただそれだけなのだが、それぞれ設立者の想いと言うものは知らず強くなるものだった。
 そして関係も、場合によっては親密で濃厚になることもある。

 「脱退したのであれば、紋章も置いて行ってた」
 「冷静に考えればそうだよな。それ伝えても、3日ぐらい落ち着かずに居たけど」
 「……今に始まったことじゃないだろうに」

 柳火は呆れたように小さく溜め息吐いた。
 元々1人での放浪癖が強い柳火は、ギルドホールから姿を1週間から最長2か月以上消えることがしばしばあり、その度にメンバーへ心配かけている。一応何処に何を目的に行くかと書き置きはしているものの、大体それが発見されるのは姿を消してから2日3日後で、それまではギルドホールには何とも落ち着きのない空気が漂うのである。

 そして今から約1か月半前、柳火は野生の動物が多く生息する大自然に囲まれたイリア大陸へ出かけていた。目的は探検家による護衛だったが、どさくさに紛れて護衛以外の仕事で遺跡の攻略も行わされた……と言うのは、ただ単に見た目に寄らずお節介な面が引き金となったのだろう。10メートルは下らない太く高い木々が、万遍なく生い茂る森で発見された遺跡にて、ほぼ1か月丸々篭っていたと言う。
 予定よりも早く帰って来れたのは、発掘やその成果が予想以上に大きく出たお陰だった。普段あまり出回ることの無い古い書籍、更に珍しい武器が見つかり、報酬も予定より半分ほど増額となったらしく、依頼者は非常に満足した様子となっていた。
 奢る食事代をきっちり支払えているのは、相当稼げたと窺える。

 柳火の話が終わった時、黒星は通りかかった店員を呼び止め、料理を注文する。

 「腹いっぱいになったんじゃなかったのか」

 そう不満げに言いながら、柳火は溜め息を吐く。「以上で」と伝えると、店員は会釈して去った。
 黒星はにやりと怪しげな笑みを浮かべながら、ちっちっと人差し指を天井に立てて横に振る。

 「甘いな、奢って貰うならそれなりに食わないと」
 「…………」

 あまりにちゃっかりとしてしまっているところを眺め、柳火は呆れたと首を振る。わざわざ値が張る街を選び、一般男性に並ぶほどの食欲、更に奢られている本人は遠慮なしだ。貰った報酬の内でいくら消えるかと予想すると、気が重くなるのを感じた。

 料理を待つ間、黒星は話をする。柳火は加入から半年過ぎた今でも、他のメンバーと共にすることが少なく、周りからの話を聞いて知ることが精一杯であった。古くから仲良くしている知人との同行が主で、酷い時は昨日までのように1か月以上ほったらかしとなってしまっている。だが稼ぎを止める訳にはいかず、やむを得ない状態だ。黒星からの話で、ギルドの内部を知っていると言っても過言では無い。
 とあるメンバーが一般的なコック以上に料理を極め出したこと。とあるメンバーは演奏会にて様々な音楽を披露し歓声を受けていたこと。とあるメンバーの頭に虎がじゃれたらしく出血で大参事になったこと。インパクトあることから些細なことまで、なるべく話す黒星の表情は何処か楽しそうだった。





 一通り話し終えたのか息を吐き、黒星は真剣な眼差しを柳火に向けた。何かを察した彼はその視線を静かに受ける。
 彼の瞳は海のように青く、海に埋まるとある宝石のように思わせる。だが実際は違う。過去や感情を全て海の奥深くに投げ込み沈めたような、それを覆い隠すかのように彩っているだけなのかと黒星は思う。
 今にして黒星が知ることは、彼は今のギルドに所属する前、今よりとても小さなギルドに所属していたことぐらい。ただそれだけじゃないと、彼が持つ強さが言っている気がした。力だけじゃない。奥に沈めたはずの何か、また別の強い感情が少しだけ湧き出ている。

 「バンダナ、お前はあの時の事件に本当に関わりないのか?」
 「…………」

 ストレートに問い出した。

 あの事件……、それは柳火が加入する1か月ほど前に起きた。
 ダンバートン付近に設置されている、月から漂う魔力によって別の街へと移動する門ムーンゲート。その近くで、馴れ合いの関係で戦ったとは思えない禍々しい跡が残っていた。地面には大量の血痕に、斬撃による跡が無数に刻まれている。同様にイメンマハのムーンゲート付近にて、戦いの跡は見えなかったものの、同じ血痕が発見されたのだ。途中追い打ちを受けたのか、小さな円が続く先に目を当てられないほどの血飛沫が残っていた。
 だが奇妙なことに、死体はそこには無く、そこから歩いたような跡も見られない。一応通り魔に注意するよう呼びかけ捜査を行ったが、手掛かりが少なすぎることによって難航、そして何の詳細も満足に判明しないままになった。

 通り魔は、決してダンバートン付近だけに生息した訳では無い。首都であるタラと、その北東に位置する錬金術師の故郷と言われているタルティーン。その間を繋ぐコリブ渓谷にも、同様の通り魔事件が多発していた。漆黒のローブを全身にまとい、錆で今にも朽ち折れそうな両手剣で、通りかかった冒険者を殺害した。フードを目深めに被っていて顔つきは分からなかったが、燃えるような赤い髪に海のような碧眼であることは分かったのだ。
 勿論、同じような容姿を持つ者は他にも存在し、特定の人物と確信出来ず、何よりも見た者で生きている者などほとんど居ない。徹底的に叩きのめしたような酷い状態で、当然その中で口が利く者など残っていなかった。

 今の黒星は彼をその通り魔の犯人とは思っていない。だが、事件の関わりに辿り着かないほどの確信が無いのだ。過去を黒く塗りつぶしているように、例えどんなに誰よりも親しい関係になっても、彼は決して話そうとしない。だからこそ、真っ直ぐに問おうと黒星は思った。

 「あると言ったら?」

 声を聞いた時、黒星はぞくっと背筋が凍った感覚を味わう。
 低く、暗く、かつて聞いたことが無いほど深い悲しみを含めた声だった。柳火は目を細め、睨むような視線で黒星を捉える。怒りとそれすら沈めてしまうような悲しみ、全て隠してきたと言うのかと心にナイフが突き刺さった。
 そこで黒星に2つ目の確信を持つ。

 「俺から話す気は無い、今後も」
 「…………」
 「話したところで、死んだ奴が戻ってくる訳じゃないからな」
 「おい、何処に行くんだよ!」





 柳火はそう言いながら音も無く席を立ち、黒星が呼び止める声に振り返ることもなく店を出て行った。
 足取りはまるで何かを探し求めるようにで、確かなものではない。ふらりと揺れる先、探しているのはこの世を去った者だけではないように感じた。何かまた、彼にとっては大きなものを失ったのではないのか。あまりに知らない顔を見せられ、黒星は躊躇わずには居られなかった。

 「……不幸だ」

 1人取り残された黒髪の少女は、少年のような声でそう呟いた。



***
 なんつぅ終わり方!って言われるかもしれません言われますね。
 もの凄く要約するとお互い大変だねって話。



 公開:12/06/15
 修正:13/04/03

category: マビノギ

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