MyPacE

自分のペースで進み行く、全スキルマスターと言うお馬鹿な山頂へ。

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Unlucky - 1.黒星  

 今の時期を感じさせる、黒に近い灰色の雲を見上げ、黒髪の少年は小さく舌打ちをした。

 目の前には焦げ茶の馬が2頭、目的地に向かって走る後姿が映っている。だが、お世辞でも決して速くは無い。何故なら、少年と他に山のような荷物を引いているのだから。走り自慢である馬、サラブレッドを2頭付ければもっと速いだろうが、交易を管理する者がそれほどの金があるとは思えない。
 馬が地面に足を付けて地を蹴る度に、カチャンカチャンとガラス同士が軽くぶつかり合う音が背後から聞こえてきた。何も知らなければ牛乳瓶をいっぱいに詰め込んだような音だが、瓶に詰められているものも立派な特産品である。ウルラ大陸の北の山に位置する小さな村、ティルコネイルで作り上げられた独特なポーション、それを今少年が運んでいるものだ。

 慣れた手つきで馬を操縦する少年は大体10代半ばか。背まで伸びた黒い髪を1つに縛り、その上からゴーグルがついた黒い帽子を被っている。白く細いラインを強調する漆黒の軍服に黒いブーツ。全身黒尽くめだが、それとは対照に少女と漂わせるような白い肌が印象的であった。

 「タラまではまだ遠いな……」

 長年の旅のせいか酸化が進み、古びてしまった丈夫な紙に記された地図を睨んで、黒髪の少年は小さく呟く。未だ襲ってくる眠気を振り払い、必死に頭を回転させるにも気がつけばぼんやりと景色を見てしまう。だが、これは少年にとってはいつものことなのだ。
 そして、その行為が不運の引き金になることも少年は知っている。分かっていながらも何故睡眠不足となっているのか。

 「前を見ろ、事故る」
 「うるさい、お前は黙って見張っとけっての」

 カチャンカチャンと高く澄んだ音が鳴る山の中から、ひょっこりと小さな影が出てきた。
 言葉を喋るが人間とは思わせない、あまりに小さな体は妖精と呼ぶ方が相応しい。可愛らしい丸い瞳、大きく尖った鼻がとても印象的で、ちらりと見せる前歯が人によっては愛嬌を感じるだろう。赤と黒で強調されている衣装と帽子を身に着けており、容姿や大きさからまるでぬいぐるみのようにも見える。
 だがそんな愛嬌も感じず、逆にイライラした口調で突き放す少年は、妖精の姿を熟知しているからだ。人はこの妖精をインプと呼び、数年前までは立派な敵同士だったのだ。今でも敵と認識している冒険者は多いが、人に慣れたこのインプやその他の魔物が出てきたからこそ、世の中の金貨がよく回るようになったと言っても過言では無い。

 つまり、少年はまんまと恩を着せられてしまっている冒険者の一部である訳だが。

 「お腹空いた、イメンマハで休憩したい」
 「はぁ? お前さっきボクのリンゴ勝手に食べてただろ!?」
 「ラーメン食べたい、レストランで腹ごしらえ!」
 「……はぁ」

 我がままを片っ端から並べ喚くインプの隣で、少年は特大の溜め息を吐いた。
 今荷物を街へ運んでいる理由はお金稼ぎに過ぎないのだが、インプの我がままに付き合っているとその目的すら果たせなくなる。その為、この日までは何言われても動じず我慢してきたのだが、それも限界と言わんばかりに。

 ぐぅぅぅー……。

 「……不幸だ」

 少年はぽつりと呟き、かつて女神が住んでいた美しい街を見つめながら、力なく馬車を操縦した。



 冒険者たちの手によって駆け巡る交易品は、鮮度を保つことも大切だが、何よりも無事に送り届けることが重要視されている。
 空腹によって馬車から転げ落ちることなど論外。最も多いのは道中荷物を横取りに、容赦なく襲い掛かってくる略奪団への敗北だ。それによって多くの交易品が盗まれ、経済とやらが小さな混乱を招くこともあると言う。
 今まで散々経験してきたこともあって、少年は一旦休憩することを選択した。

 インプは先ほど喚いた通り、馬車を停車させた瞬間凄まじい走りで街の何処かへと飛んで行く。一応再開の時間は伝え、そこは律儀に守ると知っている為、少年は特に止めはしなかった。溜め息は自然と盛れてしまうが。

 「此処に来るのも久々だな」

 馬車は交易所の魔族に一旦見張って貰い、改めて街を見渡した。
 イメンマハ……かつて美しい女神が住んでいたと言われ、その女神のように施設や空気、水までも品質がまるで違う。丁寧に敷き詰められたレンガの家、透き通るように綺麗な空気と水に恵まれている。街の中央には綺麗な噴水があり、そこを中心に宴が開かれていることも数多い。
 ただ今は生憎の曇り空で眩しいほど綺麗とは言えず、少し残念に思えたが。

 だがそんな中、もう1点自慢出来ること。それがインプが言っていたレストランだ。
 此処には首都である目的地、タラの料理人顔負けの優れたコックが経営しているレストランが存在する。例え貧乏人でも人生で一度は食べないと後悔する。そう言われる程贅沢、尚且つ有名なところなのだ。魔族ですらその料理の虜になってしまうのも無理も無い話である。

 黒髪の少年は、フラフラとした足取りで目的のレストランへと向かう。
 高級と言われているが、一応新米シェフが作る一般的な料理も置かれている。他の街の料理とは少々値が張るが、それでも充分美味しく満足出来るし、何よりも『腹が減っては戦が出来ぬ』と言ったところだ。多少帰りが遅くなる程度で、寄り道しても問題ないだろう。
 少年はそう小さく笑うが、レストランの前でぽつりと直立していたインプを見て、笑みが消えた。

 「どうした?」
 「魔族じゃない、でも殺気感じて入れない」

 魔族の言葉から信じられないことを口にされ、少年は首を傾げる。

 「待てよ、ダンバートンやティルコネイルではともかく、此処に血の気の多い奴来るのか?」

 思ったことをそのまま問うと、それを答えるかのように何かが飛んできた。
 あまりの唐突な出来事に背筋が凍りつき、投擲された物の正体を自然と目で追う。あと数センチ外れていれば、少年の片腕は無くなっていただろう。冷や汗が噴き出るのを感じながら、だがあくまで冷静にその正体の名前を口にする。

 「サーベル……」

 ―――ガシャアアアッ
 少年の呟きをかき消すように高く鳴り響いたガラスの音に、再びレストランの方を見た。

 窓から飛び出した人影に少年は絶句する。明らかに見慣れた顔、いや、見慣れていないとおかしい。一応友人で、同じ組織のメンバーでもあり、覚えていないはずもない。だが、少年は決して笑顔など見せなかった。
 それに続くように、次は見慣れない巨体が野太い声で怒り狂った声を上げ、見慣れた姿の後を追う。体格とは似合わない素早い走りで、2人の姿は街角へと消えていった。

 「……不幸だ」

 唖然とした様子で少年は、割れた窓ガラスの奥に映る店内を見て、再び大きな溜め息を吐く。
 そしてインプの方はと言うと、先ほどの生意気さは何処へやら。既に残念そうな何とも言えない哀愁を漂わせながら、トボトボと交易所へと向かう背があった。きっと非常食か何かを貰い、馬車へと待機することだろう。

 元々、見慣れた者の顔を見ただけでこのような事態になっていることは、少なからず予感はしていた。
 平然とした無表情を常に浮かべており、決して血の気の多い冒険者と言う訳では無い。だが、喋るのが面倒臭いのか無口で、あまりに短く誤解される言葉を並べるせいか、先ほどのように喧嘩を知らずに売ってしまうことしょっちゅうあるのだ。
 その為、喧噪に巻き込まれること多々あり、あまり関わらないようにしていたのだが……。

 「あいつ、暫くイリアで旅に出るなんて言ってなかったっけ」

 そう呟きながら、少年は角へ消えた知り合いの元へ歩いていった。





 イメンマハ、ヒーラーの家付近に辿り着くと、ふと探し求めていた人影を見つけた。
 年齢は20代入ったばかりであろう。身長はすらっと高く、整った顔は年齢以上の隙のないオーラを感じさせる。この時期ではまだ早い、小さな金色の花の模様を縫った薄紫色の生地、その上に純白の着物を羽織っている。下の生地と同じ色と模様の帯を巻いており、まるで時代劇の侍と連想させる。
 そして何よりも、燃えるような赤い髪に、1枚の生地をただ細長くし縫い合わされた、海のような青いバンダナが印象に残る。

 気配を感じたのか、着物の青年はちらりと少年の方を見た。
 バンダナと同じ色の碧眼は、何処か冷たさを感じさせる。

 「おい、バンダナ」
 「……黒星か」

 互いに本当の名前とはかけ離れたあだ名で呼び合った。少年は眉をしかめ、青年は特に変化の無い無表情となっている。出会ったのは半年ほど前となっているはずが、まるで昨日知り合ったような距離感だ。それほど、互いによく知らないし興味が無かった。
 だが徐々に、今更ではあるが輪郭が少しずつ見え始めている。

 「その呼び方止めてくれって何度も言ってるだろ」
 「『独特な呼び方されたい』って希望したのは誰だ」

 自業自得だろうと言う相手の言葉に、少年はそれ以上反論出来なくなった。赤髪の青年はそんな少年をチラリと横目で見て、そしてすぐに余所へと向けて溜め息を吐く。呆れていると言うよりも、その行為が癖のように見えた。

 「で、何か用か」

 ぶっきら棒に問う青年の言葉に、少年は待ってましたと言わんばかりに口の端に笑みを浮かべた。
 少年が笑えば何かあると青年は察するが、既に諦めた表情を滲ませている。

 「バンダナ、飯を奢れ」
 「はぁ?」
 「だから飯を奢れ。 折角の休憩を台無しにしてくれたんだ、それくらい責任ってものがあるだろ」
 「…………」

 予想していなかったのだろう。無表情のままだが呆気にとられた様子の青年は反論もせず、静かに思考を回転させた。少年は未だ悪戯めいた笑みを浮かべて答えを待っている。だが腹の虫は今にも鳴りそうで、表には出さないが必死に堪えていた。それでも鳴ってしまうのは鳴ってしまうが……。
 やがて結論が出たのか青年は頷くと、少年はパァっと笑みを浮かべた。

 「本当か!?」
 「但し、条件がある」

 1つと人差し指を空に向けて立てる青年に、少年はこくりと頷いた。

 「インプを必要以上には喋らすな」

 少年はふと思い出す、彼は交易自体はあまり良く思っていないと言うことを。
 苦笑しながら、だが心底嬉しそうに頷いた。



 公開:12/06/15
 修正:13/02/09

category: マビノギ

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