MyPacE

自分のペースで進み行く、全スキルマスターと言うお馬鹿な山頂へ。

13話 主人  

 しんしんと、雪が降る場所があった。

 そこは一生雪に包まれ、鉛色の雲に覆われる場所・・・そこに一人の青年が居た。

 綺麗に流れるような金色の髪、素気無い渇いた土色のローブを着て、身を震わせている。

 そして全てを見透かすような、エメラルド色の瞳は悲しげに揺れていた・・・。



 青年は白い息を吐き、目を瞑る。

 ただ、静かに、人が来ることを待っていた。



 鉛色の雲が永遠に覆っている。

 その為、彼は朝日が昇ることを知らない。

 だから・・・。







 「ほら、マナハーブ持ってきたよ。」







 今目の前にいる少女は、彼の本当の姿を知らない。






















 真っ青な空に、純白の雲が春の始まりを告げていた。

 穏やかに地上を照らず太陽は、辺りに咲く美しい桜の花びらをより幻想に見せている。



 そんな空の下、一人の女性が立っていた。・・・正確に言えば木で出来た細長い棒状の物を握り、待っていたと言えるだろうか。

 歳は20代半ばほどで、藍色の長い髪をポニーテールに結び、深海を思わせる瞳を持っている。日除けにゴーグルがつけられている桃色の帽子をかぶり、更に日除けに薄緑色のマフラー付きローブをまとっていた。



 女性の背後には巨大な湖があり、釣竿以外の釣り道具は残念ながら全て湖に飲み込まれた。

 それもこれも、今女性の目の前にいる毛むくじゃらのせいである。







 血で染められたような、深紅の毛皮に鋭く太い爪を持つ・・・赤ヒグマが3頭。

 今にも襲いかかりそうで、喉の奥から怒りを表す呻き声を出しながら、ギラリと女性を睨んでいた。

 直ぐ片づけられる強さであれば、既にこの状況を切り抜けられるものであるが・・・。



 無論、今の彼女にはそんな力など無い。







 「釣りで居眠りしているからそうなったんだろ・・・。」







 女性は困ったように頭を抱えていると、足下から白い生物が姿を現した。

 しかし太陽の光を浴びた瞬間、その白い生物はスッと光に包まれ姿を変える。

 白い手、白い足、白く長い尾、そして顔は猫・・・そのままであった。



 女の子らしい姿にも関わらず、口調は雄であるらしい。

 いや、動物の種類によって性別が確定するものは皆無だが、口で喋られると違和感を感じるものであった。

 女性はその人型である猫をチラリと目で訴えた。







 「突っ込んで3頭フルボッコにされろと言うのか。」

 「それは・・・困る。」







 呆れたように首を振った翔ちゃんと呼ばれた猫・・・翔慎は漆黒の瞳で熊を睨んだ。

 あくまでも翔慎は女性の下僕として慕う、例え下僕がずば抜けた力を得ていても・・・。

 最善を尽くして、後は主人自身だと、翔慎はそう思っていた。



 (猫が騎士になろうとか、そう考えている俺も馬鹿馬鹿しい・・・。)



 目の前に映る、3頭の熊は生気の無い・・・まるで死体のような目で翔慎の方へ首を向けた。

 その目は、主人の友達が言っていた『札』の影響だと聞いた。

 ふと思い出した。

 明るい黄土色の毛を持つ、憎らしいほど大きく丸い目を持ったネズミが、つい最近鼻にかけてきたことを。







 「あんの小賢しい小ネズミに負けて堪るか!!」

 「え、翔ちゃん!?」







 躊躇いもなく、一直線にヒグマへと風のように駆けだして行った翔慎に、何事かと女性は驚きの声を発した。それを合図に、一頭のヒグマも突っ込んでくる翔慎に向かって走り出した。

 しかし、翔慎は急に身をリラックスさせつつ、ヒグマの動きに様子を見始める。自分の縄張りに入られた怒りなのか、頭に血が昇りきっているヒグマは容赦なく翔慎に手を上げた。

 その瞬間、翔慎はヒラリと回避して熊の脇腹部分に固く握った拳で強打する。熊が倒れる時、札が貼られているところを見逃さなかった。場所は・・・左腕の下部分。



 その札を引き剥がしに再び突進した時だ。







 「キャアアァァァ!!」

 「!!」







 主人である女性の悲鳴が聞こえ、流石に足も止めないわけにはいかない。

 振り返れば女性は一頭のヒグマに襲われている。女性の姿が見えないのは、巨大なヒグマの体で完全覆い被さっているからだった。多少はヒグマの悲鳴も聞こえたが、それは悲しくなるほどあっさりと唸り声も止んだ。



 しかし、そんな生死を確認する暇など無いはずだ。ヒグマは翔慎の、目と鼻の先に迫っている。

 思わず反射で身を屈めた。襲うのは無論、恐怖。



 (何であの小ネズミは、戦うことが出来るのだろう?)

 ふと、いつもの疑問が頭を過るようになったのは、遠くない過去からの話。







 「いっちょありーっ!」







 ―――ベリベリベリッ!



 まるで、時が止まったようだった。少年のような明るく元気な声が、甲高く響く。

 それと同時に、一番聴きたくなかった紙が破けた音が派手に鳴った。

 その音は・・・一瞬の勝敗を物語る。



 (嗚呼、また助けられて・・・。)



 立場は一転した。2本の平行に、風を切る細い矢が通り過ぎる。

 そして翔慎の目の前に飛ぶように現れたのは一つの・・・それはもう憎らしいほど小さい影。

 明るい黄土色の毛を持ち、長い尻尾が特徴的な『奴』だった。







 「また翔ちゃん一匹で頑張ろうとしてるー。」

 「だから翔ちゃんと呼ぶな・・・!」







 噂をすれば現れる、それが『奴』であった。カンガルーネズミ種のニノリーノと呼ばれるペットが。

 ヒグマは魔符を剥がされ、少々状況が読めていないようきょとんとした表情を浮かべていた。しかし、獲物が今目の前にいる。空腹からなのか、涎を撒き散らしながら怒り狂ったようにニノの方へと走った。



 そんな状況でも、冷静を保ちつつチラリと翔慎を見やった。

 表情は何と言うだろうか・・・ニノは珍しく真剣な顔で見ている気がした。







 「僕たちは所詮ペットなんだ、ご主人様と共にじゃないと戦えないよ。」







 そうニノが言い終えた同時に、巨大なヒグマが翔慎の目の前へと倒れた。その場を中心に波紋が広がり激しく揺れた。よく見るとヒグマの背には深々と矢が刺さっている。まだ気力はあるようでふらつきながらも立ち上がり、何と言うタフなんだと、翔慎は冷や汗を流し後退りした。

 しかし・・・翔慎や椿と呼ばれる女性の知り合いで、弓を使う者などいただろうか・・・?


 道から外れて歩いてくる人影に気が付いたのは、その疑問を抱いた数秒後だった。

 年は10代後半だろうか、背は男性の平均ほどある。髪型は癖のある短髪が黒く、瞳もまた漆黒に染まっている。旅の旅行者が愛用していると言われている旅人の服、厚い革で出来た帽子を身につけ・・・。

 そして何よりも目に入ったのは・・・弓を扱う初心者から上級者が愛用される、幅の広い弓。







 「遠矢、普通に射ていい。後日に俺が弓を教える。」

 「ご主人様ー!ヘロヘロしてるヒグマは済ませていいですかー!?」

 「寧ろやれ。」







 「喜んでー!」っと叫びヒグマを襲うペットは、何だか楽しそうにも見えた。

 ついに力尽きたヒグマは仰向けになって倒れ込み、再び地響きが伝わった。



 ニノは特に弓矢を持った・・・遠矢と呼ばれた青年に警戒心を抱かずにいる。その様子から、前からの知り合いかと翔慎は思ったが、どうやらそうではないようだった。遠矢の傍に立つ、平均より少し上の見慣れた青年が見えたことから察する。







 「相変わらず。」







 ニノリーノの主人であり、翔慎の主人の友人でもある・・・柳火と言う名の青年であった。

 柳火は短くそう言うとふと息を吐き、目付きを刃物のように鋭くして睨んだ。

 視線の先は、翔慎の主人である女性。







 「椿さん、釣りをするなら巣から離れていて下さい。」







 柳火はそう言い終えると、両手で2本の剣を握り、地を強く蹴って駆け出した。

 遠矢の傍からスッと居なくなったと思えば、椿と呼ばれる女性を襲うヒグマの背後に移動している。すると華麗な剣の舞を演出しているかのよう・・・2本の剣でヒグマを激しく切りかかった。



 反撃の隙を与えず、倒れるまで切り刻むつもりなのだろうか。強く握りしめられた剣の柄は、剣そのものが彼と一体化しているようにも見えた。しかし見入っている間、既にヒグマはどす黒い血に浸りながら倒れており、残りのヒグマへと標的を移す。







 「ニノ、アレは一体・・・。」







 遠矢はニノと翔慎の傍へ駆けより、瞬きせず興味深々に問う。

 大地がまた激しく揺れる・・・柳火は最後の一撃をヒグマの心臓に目がけ、2本の剣を深々と突き刺した。そしてヒグマを足で強く蹴り飛ばし、剣を引き抜けば巨大な赤い壁背後へ垂直に倒れ、柳火は巻き込まれない位置に着地する。

 そんな主人の姿を見たニノは振り返り、遠矢に言った。





















 「何言っているの遠矢、アレはスマッシュだよ。」

 大真面目な顔をして答えたニノに、翔慎は吹き出して大声で笑い始めた。









 10/06/28 作成

 11/02/11 公開

category: マビノギ

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